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「インターネットに子供が参入する日」

「インターネットに子供が参入する日」                     
童話作家 末吉暁子 
国土交通 2001年7号

私の最初の本、『かいじゅうになった女の子』という童話が出版されたのは1975年だから、四半世紀も前のことになる。

怪獣になりたかった女の子が、本当に怪獣になっちゃうという書き出しは、当時、3,4歳だった私の娘と年上のいとことが遊んでいる様子を、そっくりそのままパクってふくらませたものだ。幸い、読者である子供たちにもウケて、ずいぶん長いこと本屋さんに並んでいた。

それから25年。私自身は、子供の本を書いているせいか、相変わらず精神的には幼児のままのような気がするのだが、周囲の環境変化は、めまぐるしいばかりだ。

その際たるものが、インターネットの普及だろうか。書き始めた頃は、もちろん、ワープロなどというものもなかったから、ひたすら原稿用紙に向かって、太いボールペンで下書きし、最終的に万年筆で清書をした。出版社を退社するときにいただいた記念の万年筆は使い勝手がよくて、ずいぶんお世話になったものだ。今では、この万年筆、机の引き出しに放り込まれたまま、すっかり忘れられた存在になっている。

やがてワープロの時代がやってきた。手書きからワープロに移行するときは、やはり抵抗があった。なんだか自分の文章じゃないような気がしたものだ。絵描きさんの中には、「ワープロで書いた文章なんかに、絵をつける気がしねえ」なんていう人もいたくらいだ。

でも、ワープロを何とか使いこなせるようになってみると、やっぱり便利だ。いちいち新しい原稿用紙に手で書き直す事なんて、まどろっこしくて、もうできない。

しかし、あっという間に、パソコンの時代になってしまった。もう、ワープロの機械そのものを生産しなくなるというんだからしょうがない。まだ完全にボケる前に慣れておかなくちゃいけない。

私の場合、パソコンはまず、メールと、自分自身のホームページを持つ事から始まった。

ホームページは、21世紀の元旦にかっこよく船出しようという目論見こそ外れたが、何とか、新年早々には開設できた。

ホームページを持とうと思い立ったきっかけは、いくつかある。

一つは、今までやってきたさまざまな仕事、単行本だけではなくあちこちに書き散らしてきた書評やエッセイ、テレビの仕事、仲間と刊行している同人誌など、もろもろの仕事を一目瞭然の形で、どこかで整理したかった事。これには、ホームページは最適だった。

もちろん、広報活動としての目的もある。このところ、少子化や読者の活字離れなどで、子供の本の出版界も、もろに不況の波をかぶっている。それでなくても、もともと児童書の出版社はほとんどが弱小企業なのだから、新聞に小さな広告ひとつ出す余裕すらないのが現状だ。そしてまた、新聞広告そのものも、以前のような強力な媒体ではなくなっている。第一、本屋にいっても、子供の本などなかなか置いてないのだ。

一方で、インターネット上では個人のホームページが続々と誕生し、そこには誰でも自由に参加できる。

とんでもなく大量の人がインターネットを見ているのである。

姿は見えないが、毎日アクセスしてくる大勢の人たち。掲示板に書き込まれる数々のメッセージと、それに答える未知の人たち。ホームページ即ちウエッブサイトは、日々、生き物のように変化を遂げていく。 実際、私も自分のホームページを持ってみて、新種のペットを抱え込んだような気分になった。手がかかるが面白い。新種だから、目を見張るような新鮮な体験もあるし、思いもかけなかった故障や失敗もある。

否応なく毎日巻き込まれる。

もっとも、誰でも自由に参加できるといっても、今の段階ではまだまだインターネットにアクセスするのは限られた人でしかないだろう。老人や子供や、さまざまな事情からパソコンを持つ事ができない人にとっては、遠い世界での出来事かもしれない。でも、遠からず、子供も老人も直接参入する日がやってくる。

複雑怪奇で、すぐ、ウンともスンとも言わなくなってしまう難しいパソコンというイメージを払拭して、もっともっと誰でもが簡単に扱える日がやってくると思うのだ。

そのときこそが、私が自身のホームページを持った最大の目的が果たされる日なのだ。早くいえば、子供たちに直接アクセスしてほしくて、ホームページを作ったのである。

だから、なるべく子供たちが見ても面白くて、わかりやすいページにしたつもり。

断っておくが、私は決してネット社会を賛美しているわけではない。

今まで、子供たちからもらった数々のファンレター・・お気に入りの絵や漫画のついた便箋に、鉛筆書きの字で一生懸命書いてくれた手紙の数々は私の宝物だ。子供たちがネットに参入してくれば、もう、鉛筆書きのファンレターなど書いて送ってくる子はいなくなるかもしれない。そうなったときに、私は宝箱を開いて、子供たちからの手紙を取り出し、「昔はよかったなあ」と懐かしむだろうこともわかっている。

でも、時代の流れに逆行することはできない。子供たちがインターネットに日常的に参入する日は、遠からずやってくるのだ。

ホームページを開設してほぼ四ヶ月。まだ小学校低学年以下の子供たちから掲示板への書き込みはない。

初めて、小さな子供が書き込みをしてくれる日・・一ヵ月後か、一年後か、十年後か。それは私にとって、大きな記念日になるはず。

その日を楽しみにして、これからもせっせと面白い童話を書いていこう。

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児童文学作家 末吉暁子の世界へようこそ!
公式HP「末吉暁子童話マップ」(01~16年)を元に、ちょびっとずつ公開。暁子さんの日記などは大体そのまま掲載しております。
猫とファンタジーを愛した作家の部屋へ、どうぞお立ち寄りくださいね~☆byりさ

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