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「幻の花」

「幻の花」

平成16年4月17日 

静岡新聞夕刊コラム「窓辺」第3回

末吉暁子 


私が生まれたのは横浜市だが、3歳のときに両親の出身地である沼津市に移ってきた。親戚の農家の離れを借りて、親子五人の暮らしが始まった。私の上には、それぞれ3歳ずつ年の離れた二人の姉がいた。終戦の年である。

その農家の裏口あたりで、母は、ときどき近所の主婦たちと立ち話をしていた。内気な子供だった私は、そんなときも母の後ろにくっついたまま、眺めるともなく、垣根の花や葉を見つめていた。

いつの季節かは忘れてしまったが、えんじ色をした地味な花が咲いていた。生垣に絡みつくようにひっそりと咲くその花を、幼心にも美しいと思った。

それからまもなく我が家には弟が生まれ、私達一家は歩いて数分の新しい家に引っ越した。

それきり、生垣の花を見る事もなくなってしまったのだが、ときおりどこかで似たような花を見つけると、思い出しては、せめて花の名前だけでも知りたいと思った。

図鑑で調べたりもしたが、これだと思う花には出会わなかった。

それから何十年もたち、すでに私は東京での暮らしのほうが長くなっていたが、実家に帰ったときに、あの生垣のところまでいってみたりもした。が、あたりの風景も昔とずいぶん変わっていて、結局判らないままだった。

数年前のこと。すぐ上の姉と雑談しているとき、ふと思い立って、その花のことを聞いてみた。

姉は即座に「ああ、あれは、あけびの花!」と言った。

そうだったのか! 長年の謎の答はこんなに近くにあったのに、なんと回り道をしていた事か。

花の名前がわかったのも感動だったが、姉が同じ時に同じものを見ていたのだと知ったのも、不思議な感動だった。

akebi01.jpg

~~~あとがき~~~

静岡新聞「窓辺」を読んで

私の家の近くに咲いていましたので、一枚パチリ


――こんなお便りと一緒に、その日の夕方、浜北市の森島さんという方から、メールで写真が届きました。

あけびの花の季節がいつごろだったかも定かでなかった私としては、あまりのタイミングに、またもや不思議な感動を味わうことになりました。

上の写真は、その一部を転載させていただいたものです。

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児童文学作家 末吉暁子の世界へようこそ!
公式HP「末吉暁子童話マップ」(01~16年)を元に、ちょびっとずつ公開。暁子さんの日記などは大体そのまま掲載しております。
猫とファンタジーを愛した作家の部屋へ、どうぞお立ち寄りくださいね~☆byりさ

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